A型肝炎は、 患者の糞便中に排泄されたウイルスが感染源となり、 汚染された食品・飲料水を介して感染します。時に家庭・集団生活の場などで集団発生することもあります。典型的症状は黄疸を伴う急性肝炎で,慢性化したりキャリアーになることはありません。しかし、まれに劇症肝炎をおこすことがあります。
  日本では近年A型肝炎は減少してきていますが、 依然として国内感染例がみられる一方、中国などのアジアを中心とした国外感染例が増加しています。
  山形県では、1990年に47名の患者報告がありましたが、その後減少しています(下図参照)。しかし、最近になり再び患者数が増加しており、2001年に9名、2002年には13名の患者報告がありました。2001年の1名はパキスタンで感染したと推定される症例でした。
 山形県では、2001-02年、同意をえられた120人の県民の皆様の血清を用いてA型肝炎ウイルスに対する抗体保有状況を調査しました。
 
 その結果、50歳未満の方では全く抗体陽性者が見つかりませんでした(よって抗体陽性率はゼロです)。50歳代では19人中5人(26.3%)、60歳以上で13人中12人(92.3%)の人が抗体をもっていることがわかりました(上図参照)。したがって、”50歳未満ではすべての人が抗体を保有せず、60歳以上ではほとんどの人が抗体を保有し、50代の人はそのはざまとして、抗体をもっている人ともっていない人がいる”現状が明らかとなったのです。

 衛生環境の良くない発展途上国では、乳幼児期にほとんどの人がA型肝炎ウイルスに感染するので、抗体陽性率が100%になります。これに対し、今回山形で見られたパターンは先進工業国に見られる典型的なパターンです。つまり、1945年の敗戦直後までは日本も途上国パターンであったのですが、衛生環境が改善されたため、A型肝炎ウイルス蔓延状態から解放されたことを物語っています。月日がたつとともにA型肝炎の抗体保有者は高齢化し、抗体陰性世代も40代から50代、60代へとシフトしていきます。ですから、近い将来には、私たちすべてがA型肝炎に対する抗体がなく感染する可能性がある状態、になっていくのです。

 免疫のない人が発展途上国へ旅行したり、国内でも生カキ・寿司など魚介類の生食時には注意する必要があります。A型肝炎はワクチンによる予防が可能であり、 日本では16歳以上で任意接種として接種できるので、A型肝炎流行地への渡航予定者は第一に考えるべきでしょう。また、食品の中心部まで十分加熱して食べる調理者は常に手洗いを励行する、などの基本的な衛生管理の徹底を心がけることは言うまでもないことです。

(衛生研究所所報36:60-61,2003参照)
  調査の実施にあたっては、血清をいただいた県民の皆様、保護者の皆様、関連医療施設のスタッフの皆様のご配慮をいただきました。厚く御礼申し上げます。

皆様のご協力どうもありがとうございました