毎年夏になると”夏かぜ”がはやります。夏かぜはエンテロウイルスというウイルスの仲間が主な病原体です。この仲間は約70種類もあって毎年流行する種類が入れ替わります。コクサッキーウイルスB型もエンテロウイルスの仲間で1〜6型まで6種類の血清型があります。

  私たちは、1999年に確立したウイルス分離検出システムで、2002年夏に県内でコクサッキーウイルスB2型の流行を捕らえました。そこで、今回はコクサッキーウイルスB型がどのくらい山形で感染症をおこしているのか、侵淫状況(どのくらいのヒトが感染しているのか、その感染力の強さ)を調査するために、血清疫学調査を実施しました。

  私たちは、山形県内でコクサッキーウイルスB1〜5型をこれまでに検出した経験があります。6型は全国的にも、めったに検出されない珍しいタイプで、病気をおこすこともまれであると考えられます。ですから、今回は、山形で実際に検出された1〜5型を抗原として山形県民の中和抗体保有状況を調査しました。

  結果を図に示しました。グラフのX軸は年齢層を、Y軸には陽性率(%)を示してあります。黒い棒グラフが高いほど、その年齢の人たちで抗体陽性率が高かったこと、すなわち感染機会が多かったことを示します。エンテロウイルスの仲間は、原則として小児期に感染して病気をおこすので、例えば40歳台で感染率が100%であれば、その世代の人たちが子供時代を過ごした30-40年前、そのウイルスにすべての人が感染する状況にあった、と解釈することができます。

  今回の結果から、血清型によってかなり侵淫状況(感染力の強さ)に違いがあることがわかりました。

  2型では、高校生以上の世代ではほとんど100%の人たちが感染し、20世紀半ばから現在まで、非常に強い感染力をもって山形県内に存在して病気をおこし続けているといえます。4型も2型に匹敵する勢力をもって県内で感染症をひきおこしているようです。その一方、1型や3型は、現在30歳台〜40歳台の人たちの小児期は50〜80%くらいのヒトに感染をおこしていましたが、時代が下がるにつれて感染の機会が減少している(棒グラフの高さが若い世代ほど低くなってきている)と読むことができます。5型は60%程度の人が感染するレベルで現在も推移していると考えられます。
 

  このように血清疫学調査を実施することによって、私たちは、時代とともにウイルス病原体の感染力がどのように変化してきているのか、あるいは私たちの感染防御能がどの程度あるのか、などを知ることができます。そして、このようにウイルス病原体に対する血清疫学調査を実施することは、ウイルスを検出する手段とともに、感染症対策を充実していく上で大切なことなのです。こうした地道な作業の積み重ねが、新たに出現するウイルス感染症から山形県民を守るための基礎となるのです。
  
  今後もいろいろなウイルス感染症について、ウイルスの検出はもちろん、血清疫学調査を実施していきたいと考えておりますので、どうぞ皆様のご協力をお願い致します。

  調査の実施にあたって、ウイルス分離用の検体・血清をいただいた県民の皆様、保護者の皆様、関連医療施設のスタッフの皆様のご配慮をいただきました。厚く御礼申し上げます。
皆様のご協力どうもありがとうございました