麻疹(はしか)はウイルスがおこす病気です。免疫がないヒトがウイルスに感染すると、ほぼ全員が発病します。

 1950年代、日本の麻疹死亡者数は年間5000人を超えることもありました。1978年(昭和53年)に定期予防接種が始まり、また社会環境が改善され、患者・死亡者数は減少しました。しかし現在でも年間10-20万人の患者発生があると推定され、合併症率約30%、入院率約40%、年間10-30名程度の死亡者がでるなど、重篤な病気といえます。

 麻疹ウイルスは、ヒトにしか感染しないため、世界から根絶できると考えられています。世界保健機関(WHO)では、2000年に麻疹による死亡率減少と地域的な排除のための世界麻疹排除対策戦略計画を策定し、麻疹排除へのチャレンジを開始しました。排除への段階としては、@制圧期(第一段階):麻疹が恒常的に発生しており、患者発生・死亡の減少を目指す時期、A集団発生予防期(第二段階):全体の発生を低く抑えつつ特に集団発生を防ぐことを目指す時期、B排除期(最終段階):国内伝播がほぼなくなり根絶に近い状態、の3つがあります。2002年現在日本は、中国・インドなどとともに、第一段階にあります。オーストラリアなどオセアニア諸国の多くは第二段階、アメリカ大陸・ヨーロッパ諸国はすでに最終段階です。最も進んだ国々の患者発生は、ほとんどが輸入例となっています。

 それでは、山形県の流行状況はどうなっているのでしょうか?1992年に大流行があり、その後患者数は激減しました。1998年に庄内地区で127名の集団発生がありましたが、以後1999〜2004年の定点患者報告数は4〜59名で推移しています。

 2004年1〜2月に村山地区の複数の中学校で麻疹が流行しました。ある中学校では、429名の生徒のうち28名の患者発生(6.5%)がありました。患者のワクチン接種歴は、あり18、なし10名でした。予防接種を受けた人で入院例がなかったのに対し、未接種者では6人が重症化し入院加療を必要としました。
 衛生研究所では、3名の生徒からウイルスを検出し、解析を進めたところ、これまで国内で認められていない遺伝子型D9であることが判明しました。過去にインドネシア、オーストラリア、ベネズエラ、コロンビアなどで報告されていることから、私たちは今回流行をおこしたD9ウイルスは海外からの輸入例ではないかと考えています。このように、県内でも麻疹ウイルスに感染する機会は減少していますが、交通の発達した現在、どこからかウイルスが侵入して病気をおこす可能性は常にあるのです。
Jpn.J.Infect.Dis.58:98-100,2005参照

 世界保健機関を中心に、麻疹の根絶をめざして、麻疹ウイルスの性状解析が実施されています。私たちが報告した山形(日本)のD9も、世界のウイルスの性状解析結果情報の一部として活用されています。(MMWR54:1100-4, 2005参照

 私たちは、2004年に262名の県民の皆様のご協力により、麻疹ウイルスに対する抗体保有状況を調査しました。その結果、0-1歳ではワクチン未接種者も含まれるため、陽性率は46.2%でした(詳細はこちらのホームページをご覧下さい)。2歳以上では92.6-100%の高い陽性率でした。しかし10-14歳で抗体陰性者が見られ、こうした人が麻疹にかかる可能性が高く、学校の流行につながっていくと思われます。

 山形県小児科医会の調査によれば、平成13年度の麻疹ワクチン接種率は1歳半健診時70.2%、3歳健診時91.7%となっています。流行抑制の目標値は、1歳児のワクチン接種率95%です。ですから、今私たちにできること、すべきことは、1歳になった子どもたちに早期にワクチンを接種し、地域としての集団免疫力を高めておくことと結論できましょう。

 衛生研究所では、これからも県内の感染症の監視を続けていきます。皆様のご協力をどうぞ宜しくお願い致します。

  調査の実施にあたって、ウイルス分離用の検体・血清をいただいた県民の皆様、保護者の皆様、関連医療施設のスタッフの皆様のご配慮をいただきました。厚く御礼申し上げます。


皆様のご協力どうもありがとうございました