本文へスキップ

山形県衛生研究所は県民の皆様の健康と安全のために活動しています。

TEL. 023-627-1358

〒990-0031 山形県山形市十日町1-6-6

【論文概要】山形県のCOVID-19第一波

 ~山形の新型コロナはどのように広がっていたんだろう?~

目次

  1. はじめに
  2. 第一波の概況
  3. 第一波の分析結果(家庭内感染予防が鍵!)
  4. 家庭内感染、そして、その先の感染の広がりを抑えましょう!
  5. おわりに
  6. 引用された論文一覧

1. はじめに

 新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)がどのように人から人へと広がっているかについては意外に情報が少ないのではないでしょうか。本記事では、山形県のCOVID-19第一波のえきがくをまとめた論文*の概要をご紹介しながら、当時、COVID-19がどのように広がっていたかをご説明します。また、第一波の振り返りにより得られた『今後の山形県のCOVID-19流行抑制のためには、家庭内感染防止が重要』というメッセージを皆さまにお伝えします。

*Seto J et al. Epidemiology of coronavirus disease 2019 in Yamagata Prefecture, Japan, January-May 2020: The importance of retrospective contact tracing. Jpn J Infect Dis. 2021;74:522-529.

2. 第一波の概況

 山形県では、2020年1月31日に初めてCOVID-19疑い患者が見出され、以降、5月31日までに2,181人(延べ2,738検体)のPCR検査が実施されました。結果として、2,181人中69人(3.2%)がPCR検査陽性と判明しました。

山形県における2020年1月から5月の新型コロナウイルス感染症検査数および陽性者数

 本県では、2020年3月31日の2人を始まりとして次々と感染者が見出されました(上図の黒い棒グラフ)。この時期は、医療機関・民間検査センターでの検査体制が整う前で全ての検体を当所で検査しましたが、4月6日の175検体を最大として日々多くの検査をおこない、その中から陽性検体が出続けることに、先の見えない恐怖を感じたことを今でも鮮明に覚えています。しかし、保健所職員の皆さまにより、①感染者のてっていしたさかのぼり調査による感染源・感染経路の追究と接触者の割り出し、②感染者と濃厚に接触した方々(濃厚接触者)への自宅待機のお願い、③全ての接触者の2週間の健康チェック、④全ての濃厚接触者の検査誘導、⑤有症状の非濃厚接触者の検査誘導、および⑥クラスター対策のための特定施設におけるじゅうてん的な検査が行われたこと、また緊急事態宣言の発出により人の流れが抑制されたこともあり、2020年5月4日の感染者を最後に山形県におけるCOVID-19第一波は終わりを迎えました。

 なお、当時、保健所保健師の方々より『ほとんど全ての感染者・接触者の皆さまが調査や検査、保健所からのお願いに協力的だった』と教えていただきました。論文の内容からは外れますが、山形県民の皆さまの真面目さや我慢強さが、第一波早期終息の後押しとなったと言えるのかもしれません。

3. 第一波の分析結果(家庭内感染予防が鍵!)

 次に、山形県におけるCOVID-19第一波で見出された感染者69人の感染源・感染経路をまとめた図を以下に示します。

山形県の新型コロナウイルス感染症第一波における感染源・感染経路の図

 図は、左から右に感染者の発病日、色付きの四角で感染経路、線で感染者間のつながりを示しています。また、色付き四角の中の数字の脇の*(アスタリスク)は、発見時点で無症状だったことを示します。この図を分析することで、大きく以下の5点を知ることができます。

  1. 感染者69人中61人、全体の88%の推定感染源・感染経路が明らかになりました。この「88%」は全国的に見ても非常に高い値であり、県内5か所の保健所において感染者への調査が徹底して実施されていたことがわかります。
  2. 家庭内感染による感染者が最多でした。具体的には、69人中30人、全体の43%が家庭内で新型コロナウイルスに感染していたと推定されました(上図のオレンジ色”家庭”の四角)
  3. 家庭内で感染した方がその勤め先でCOVID-19を広げてしまった事例が4つあり(上図の太い赤線で囲った箇所)そのうち2つが大きなクラスター形成につながっていました
  4. 家庭→勤め先→家庭・・・と感染が広がっている傾向が観察され、働き盛りの大人が感染を広げるきっかけになっていました。
  5. COVID-19は一般的には無症状でも感染を広げるとされていますが、本県第一波では、感染の広がりの起点となった19人のうち、1人(上図18番の方)を除いた18人(95%)は発見時点で何らかの症状(多い順に、発熱、けんたいかんいんとうつう、鼻炎、咳)を抱えていました

 第一波当時は、新型コロナウイルスという『謎のウイルス』に対してどのような対策を取ったらよいかが不明確であり、感染の広がりを抑えることが難しかったと思われます。一方で、このような第一波の経験から、私たちは今後のCOVID-19の広がりを抑えるためにはどうしたらよいかを考えていくことができます。

4. 家庭内感染、そして、その先の感染の広がりを抑えましょう!

 ここでは、山形県内COVID-19第一波の経験から得た

  1. 家庭内での感染が多く、一部が大きなクラスターの引き金になっていた
  2. 大人が感染を広めていた
  3. 有症者からの感染伝播が大半を占めた

 という『気づき』をもとに、家庭内感染およびその先の感染の広がりを抑えていくための方策について考えていきます。

 なお、本記事を執筆している2021年5月現在、山形県においても変異株(E484K単独変異株およびN501Y変異株 [一部は英国型変異株と確定] )が流行の主体となっていますが、上記の感染伝播の傾向に変わりはありません。むしろ、家庭内感染に関しては、家族全員が感染してしまう事例が少なくない状況になっています。したがって、『家庭内感染の予防』は、より重要になっていると言えます(最近の流行状況の詳細については、当所が運営しているCOVID-19時空間三次元マップを参照ください)。


(立体地図の呼び出しに少し時間がかかります。ご了承ください。)

(1) 家の外での感染を防ぎましょう 

 日常生活におけるCOVID-19感染予防対策は、要約するとマスクを正しくつけて密を避けることです。

 マスクは、せっかく着用するのであればりゅう除去性能(細かな飛まつをブロックする能力)の高いしょくマスクを選んだほうが良いでしょう。ウレタンマスクは、粒子除去性能はほぼゼロです(仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター 西村秀一先生の実験結果参照)。また、防御効果を最大限まで高めるために、鼻から口までをしっかり不織布マスクで覆い、マスク上部のワイヤーを鼻から頬のラインにぴったり合わせることも大切です。なお、人目があるところではマスクをしていなければならない世の中の雰囲気がありますが、大事なのは必要な時にしっかりとマスクをつけることです。屋内に関しては、基本マスクを着用すべきです。一方で、屋外に関しては、朝の駅のホームやご近所さんとの井戸端会議などの密な場面ではマスクを着用すべきですが、ひとかげまばらな歩道、かんさんとした公園などの密ではない場面ではマスクをすることにほとんど意味はありません。四六時中マスクをつけていると疲れてしまいます。マスクをつけても意味がない時はしない、でも必要な時にはかんぺきに装着するというメリハリが大事と考えられます。そして、屋外でマスクをしていない人がいても目くじらを立てないかんようさが世の中にあってほしいものです。

 効果的に『密を避ける』ためには、危ない場面を知ることが大切です。その点において『感染リスクが高まる5つの場面』(新型コロナウイルス感染症対策分科会提言)は大いに参考になります。

感染リスクが高まる5つの場面

 この『5つの場面』の鍵は友人や同僚との会話・会食・カラオケです。では、私たちは、豊かな人生を送るために必要な親しい方々とのこれら楽しい時間をずっと我慢し続けなければならないのでしょうか?正直、やってられないと感じる方も多いと思います(執筆者もその一人です)。ただ、大人がCOVID-19の感染を広めていたという事実を踏まえ、今しばらくは我慢するところは我慢するという『大人の対応』が必要になると考えられます。

  • お住まいの地域に緊急事態宣言が発出されている時期は、会食・カラオケは控えましょう。
  • お住まいの地域でCOVID-19感染者が持続的に出ている時期は、守るべき家族がいる方は会食・カラオケは控えたほうがよいでしょう。どうしても行く必要がある時は、感染対策の実施が確認されているお店(山形県の場合、『新型コロナ対策認証施設』)を利用し、感染リスクを少しでも下げましょう。
  • お住まいの地域で感染者が出ていない状況であっても、経済的つながりの深い他県の流行状況を加味しながら、とるべき行動を決めていきましょう。実際、山形県内第三波(2021.3~)では、宮城県での感染者数の急増から少し時期を置いて、山形県でも急激に感染が広まりました(COVID-19時空間三次元マップ参照)。また、山形県内第一波以降、関東とのつながりがある感染者が感染伝播のきっかけとなる傾向が続いています。隣県や関東圏の流行状況を常日頃から把握し、状況に応じて予定を延期するなどの柔軟な対応が感染を予防することにつながります。

(2) 家の中でのウイルスの拡散を防ぎましょう

 COVID-19に感染したかもしれない方、具体的には、前のセクションで述べた会食・カラオケをした方、COVID-19流行地域へ出張した方、COVID-19流行地域から帰省した方などは、2週間(難しいようであれば最低1週間)*、最大限の感染対策により家庭内感染を予防しましょう。この際、家の中でもマスクを正しくつけて密を避けることが鍵となります。

*感染から発症まで4~5日が多い点、14日目までは発症し得る点に基づき記載しました(アメリカ疾病予防管理センター(CDC)まとめ

オミクロン株に関する補足・・・オミクロン株感染では発症までの期間が短いこともあり、7日目までの感染予防策が必要とされています(関連情報 山形県ホームページ)。そのため、2022年以降は、「2週間」を「7日」と読み替えて対応ください。

COVID-19に感染したかもしれない方の家庭内での2週間の対策

  • 常時、不織布マスクをしっかり着用しましょう。
  • マスクをしていない時(食事、歯みがき、洗顔、お風呂、喫煙、就寝時など)が、誰かに感染させるかもしれない一番危ない時という認識を持ちましょう。
  • 食事は、他の家族とできるだけ離れて取るか、時間をずらしましょう。
  • 歯みがきでは大量の飛まつがでます。洗面所をしっかり換気するか、ベランダ・換気扇の下など別な場所でみがきましょう。また、他の家族と時間をずらしてみがきましょう。
  • お風呂は最後に入りましょう。また、お子さんと一緒に入らないようにしましょう。
  • 夜は独りで寝ましょう。難しい場合は、家族と顔が近づかないように工夫して寝ましょう。
  • その他、ご自身がCOVID-19に感染しているかもしれないという想定のもと、家族への感染を防ぐよう最大限の配慮をしながら過ごしましょう。

その他ご家族の2週間の対策

  • 常時、不織布マスクをしっかり着用しましょう。マスク着用が難しい小さなお子さんがいる場合は、大人がしっかりマスクをつけましょう。
  • 換気は、極めて効果的な感染予防策です。窓を開ける、エアコン・サーキュレーターを運転させるなどを組み合わせて空気のよどみを解消させましょう。
  • COVID-19に感染したかもしれない方とは距離を取りつつも、温かい気持ちで接してあげましょう。

 COVID-19は、症状が出る2日前から他の人に感染させ得る他、感染しても症状が出ない場合があり、無症状でも他の人に感染させる場合があるやっかいな感染症です。家庭内は感染伝播を抑えるのが難しい環境ですが、新型コロナウイルスが入ってきたかもしれない時は最大限の対策をする、その代わり、ウイルス侵入の可能性が低い普段の生活では、家族全員が最大限仲良く過ごすというメリハリのある対応が感染を予防するために大事と思われます。

(3) 家の外にウイルスを持ち出さないようにしましょう 

 山形県におけるCOVID-19第一波では、感染を広めていたのはほとんどが何らかの症状を抱えている方でした。したがって、体調が悪い時(≒COVID-19に感染しているかもしれない時)に外出しないことが、家の外にウイルスを持ち出さない最も効果的な対策になります。

  • 勤め人の方は、体調が回復するまで休みをとって静養してください。それが難しいようであれば、テレワークをしてください。少なくとも、体調が悪い時にマスクなしでの会話・会食・カラオケをすべきではありません。それは、知り合いやその家族、さらにその家族とつながっている会社、学校、高齢者施設などの多くの関係者に感染を広めてしまうかもしれない、とても悲しい行為です。
  • お子さんの体調が悪い時は、学校(幼稚園、保育園、小中高校)を休ませてください。変異株流行下では、これまで影響が少ないとされてきた子供たちにも感染が広がっています。実際、2021年4月以降、山形県でも高校や保育園でクラスターが発生しています。大人の適切な判断が、子供たちを守ることにつながります。
  • おじいちゃん、おばあちゃんと一緒に住んでいるご家庭では、普段から家族が体調をしっかり把握し、熱がある、いつもより元気がない等の異常に気付いた際は、自宅で静養してもらってください。おじいちゃん、おばあちゃんがデイサービスに通ったりや病院に定期通院したりするのは心身の健康を保つためにとても大事なことですが、それら施設には、体の弱い高齢者や持病を抱えている方々がいることをお考えください。
  • それ以外の大人のみなさん(大学生など)も、体調不良時には外に出かけないようにしてください。
  • ご家族が病院へ行く際は、受診前に、かかりつけ医療機関、もしくは山形県受診相談コールセンター(TEL 0120-88-0006(フリーダイヤル); 土日祝日含む24時間対応)に電話相談してください。

 なお、万が一家族の中からCOVID-19感染者が見つかった場合は、保健所から具体的な感染予防策や検査のお願いの連絡がいきます。その際には、ご家族を、そして周囲の関係する方々を守るためにも、しんに対応いただければ幸いです。

5. おわりに 

 山形県内COVID-19第一波の分析により、山形県では、①家庭内感染が多かったこと、②大人が感染を広めていたこと、③有症者が感染を広めていたことが明らかになりました。これまで山形県では、県民の皆さまのご協力により他都道府県と比較して感染者が少ない状況が続いていますが、大人たちが良識ある行動をとり、家庭内感染を予防していけば、今後の県内でのCOVID-19の流行がさらに抑えられていくと考えられます。人と人は意外なところでつながっており、新型コロナウイルスはそのような人のつながりを頼りに広がっていきます。ご家族を、その周りの大切な方々を守るために、各家庭でどのような時に対策をとるべきかを事前に話し合い、実際に必要な場面が来た時にはてっていてきな対策をとっていただけると幸いです。

6. 引用された論文一覧

 私どもの論文が引用されている論文の一覧は以下のとおりです。

1. Madewell ZJ et al. Factors Associated With Household Transmission of SARS-CoV-2 An Updated Systematic Review and Meta-analysis. JAMA. 2021;4:e2122240

→ COVID-19家庭内感染に関するシステマティックレビュー&メタアナリシス(COVID-19家庭内感染に関する有用な論文を抽出し、再解析した論文)。文献28番に山形の論文が引用されています。こちらの論文によると、山形県のCOVID-19第一波における家庭内接触者の感染率22%は、世界のデータと比較してもちょうど真ん中位でした。

2. Wagatsuma K, et al. Genomic Epidemiology Reveals Multiple Introductions of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 in Niigata City, Japan, Between February and May 2020. Front Microbiol. 2021;12:749149.

3. Ohishi T, et al. SARS-CoV-2 delta AY.1 variant cluster in an accommodation facility for COVID19: Research study. Res Sq. 2022.

4. Tomioka K, et al. Number of public health nurses and COVID-19 incidence rate by variant type: an ecological study of 47 prefectures in Japan. Environ Health Prev Med. 2022;27:18. doi: 10.1265/ehpm.22-00013.

更新情報

2022.6.2
「6. 引用された論文一覧」を追加しました。また、オミクロン株に関する補足を追加しました。
2021.9.14
「6. 引用された論文一覧」を追加しました。
2021.5.14
本ページの公開を開始しました。

バナースペース

山形県衛生研究所へのアクセス

〒990-0031
山形県山形市十日町1-6-6

TEL 023-627-1358
FAX 023-641-7486
生活企画部:627-1108
微生物部:627-1373
理化学部:627-1110