日本では、1960年のポリオ(小児麻痺)大流行を契機に、1961-63年に輸入生ワクチンの緊急投与・小児へのいっせい投与が行われ、64年以降、春・秋2回の定期接種が確立しました。その結果、ポリオ患者は激減し、現在完全に制圧されている状態にあります。
  1988年にスタートした世界保健機関(WHO)の世界ポリオ根絶計画は着々と進行しており、日本が所属する西太平洋地域でも野生株(ワクチン株でなく自然界にある病原性が高い株)ポリオウイルスがないことが2000年9月に宣言されました。
  このように、日本、及び周辺諸国では野生株ポリオはないとされますが、南アジア(インドなど)やアフリカ諸国にはまだ野生株ポリオがあるため、私たちはまだ、完全にポリオから解放されたわけではないのです。よって、野生株の侵入に対して監視を続けるとともに、ワクチンによる予防を継続する必要があるといえます。ポリオウイルスには1・2・3型の3つの血清型があり、現在世界各地で報告されている患者は、ポリオウイルス1型または3型に起因するものです。
 山形県では、2002年、同意をえられた県民の皆様(0-4歳:26人、5-9歳:27人、10-14歳:27人、15-19歳:25人、20-29歳:35人、30-39歳:43人、40-49歳:33人、50-59歳:24人、60歳以上:24人、合計264人)の血清を用いてポリオウイルスに対する中和抗体保有状況を調査しました。

 
 その結果、全体では、ポリオ1型、2型、3型の中和抗体陽性率は、それぞれ90.6%,99.6%,83%でした。すなわち、2型についてはほとんど全員が抗体をもっており、約9割の人が1型に対する抗体をもち、3型に対する抗体の保有者は8割強であることがわかりました。

 年齢別に見ると、40歳代以上の人たちは3つの型に対して100%に近い中和抗体保有状況にありました。いっぽう、15歳未満では、1・2型に対しては100%抗体を獲得していましたが、3型については、80.8-88.9%でした。15歳以上40歳未満では2型はほぼ100%抗体を保有していましたが、1・3型については他の年代より低い傾向にありました。1型に対しては、特に20-29歳で80%、30-39歳で65.1%と、3型に対しては、15-19歳で68%、20-29歳で62.9%,30-39歳で76.7%と低くなっていました。

 これまでの厚生労働省の調査で、昭和50-52年生まれの方は他の年齢に比べポリオの免疫が低いとされています。特に、この世代にあたる人たち(ここでは25-27歳のヒトを想定しました)についてみると、1・2・3型に対してそれぞれ62.5%(5/8)、100%(8/8)、75%(6/8)となっていました。この年齢層では、特に1型に対する抗体保有率が低いことが再確認されました。

 40歳代以降の世代では、ポリオ野生株が存在した時代に小児期を過ごした方々が多数含まれており、こうした方々では高い抗体保有率が長期間維持されているのでしょう。15歳未満の抗体保有状況をみると、1999年の厚生労働省の調査時の”1型、2型は抗体獲得率が1回投与で90%以上であるのに対し、3型は41.5%に過ぎず、2回投与で86.1%に達する”という結果がほぼそのまま当てはまりそうです。15歳から40歳未満の世代はワクチンで抗体を獲得してきた世代であり、こうした世代では2型の抗体は保持されますが、1・3型では抗体が減衰してくるのかもしれません。20代で抗体保有率が低い傾向は、すでに1999年の厚生労働省の調査時に指摘されており、今後これらの世代が年齢を重ねていけば、しだいに抗体保有率が低い世代が40代・50代へと移行していくことになるでしょう。
 
 ポリオ流行国へ行くことがなければ、あまり過剰な心配はいりません。しかし昭和50年-52年生まれであるなしに関わらず、現在10代後半、20代、30代の方は1・3型に対する抗体を保有していない可能性が高いことを頭のスミにおいておきましょう。心配な場合には、医療機関を訪れて抗体検査をすることができますし、春と秋の定期接種の時期にあわせて成人でもポリオの予防接種を受けることが可能(ただし有料です)です。

(衛生研究所所報36:62-63,2003参照)
  調査の実施にあたっては、血清をいただいた県民の皆様、保護者の皆様、関連医療施設のスタッフの皆様のご配慮をいただきました。厚く御礼申し上げます。

皆様のご協力どうもありがとうございました