~山形の新型コロナはどのように広がっていたんだろう?~
最終更新日:2022年6月2日
新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)がどのように人から人へと広がっているかについては意外に情報が少ないのではないでしょうか。本記事では、山形県のCOVID-19第一波の疫学をまとめた論文*の概要をご紹介しながら、当時、COVID-19がどのように広がっていたかをご説明します。また、第一波の振り返りにより得られた『今後の山形県のCOVID-19流行抑制のためには、家庭内感染防止が重要』というメッセージを皆さまにお伝えします。
*Seto J et al. Epidemiology of coronavirus disease 2019 in Yamagata Prefecture, Japan, January-May 2020: The importance of retrospective contact tracing. Jpn J Infect Dis. 2021;74:522-529.山形県では、2020年1月31日に初めてCOVID-19疑い患者が見出され、以降、5月31日までに2,181人(延べ2,738検体)のPCR検査が実施されました。結果として、2,181人中69人(3.2%)がPCR検査陽性と判明しました。
DOI: https://doi.org/10.7883/yoken.JJID.2020.1073 より引用、改変。
本県では、2020年3月31日の2人を始まりとして次々と感染者が見出されました(上図の黒い棒グラフ)。この時期は、医療機関・民間検査センターでの検査体制が整う前で全ての検体を当所で検査しましたが、4月6日の175検体を最大として日々多くの検査をおこない、その中から陽性検体が出続けることに、先の見えない恐怖を感じたことを今でも鮮明に覚えています。しかし、保健所職員の皆さまにより、①感染者の徹底した遡り調査による感染源・感染経路の追究と接触者の割り出し、②感染者と濃厚に接触した方々(濃厚接触者)への自宅待機のお願い、③全ての接触者の2週間の健康チェック、④全ての濃厚接触者の検査誘導、⑤有症状の非濃厚接触者の検査誘導、および⑥クラスター対策のための特定施設における重点的な検査が行われたこと、また緊急事態宣言の発出により人の流れが抑制されたこともあり、2020年5月4日の感染者を最後に山形県におけるCOVID-19第一波は終わりを迎えました。
なお、当時、保健所保健師の方々より『ほとんど全ての感染者・接触者の皆さまが調査や検査、保健所からのお願いに協力的だった』と教えていただきました。論文の内容からは外れますが、山形県民の皆さまの真面目さや我慢強さが、第一波早期終息の後押しとなったと言えるのかもしれません。
次に、山形県におけるCOVID-19第一波で見出された感染者69人の感染源・感染経路をまとめた図を以下に示します。
DOI: https://doi.org/10.7883/yoken.JJID.2020.1073 より引用、改変。
図は、左から右に感染者の発病日、色付きの四角で感染経路、線で感染者間のつながりを示しています。また、色付き四角の中の数字の脇の*(アスタリスク)は、発見時点で無症状だったことを示します。この図を分析することで、大きく以下の5点を知ることができます。
第一波当時は、新型コロナウイルスという『謎のウイルス』に対してどのような対策を取ったらよいかが不明確であり、感染の広がりを抑えることが難しかったと思われます。一方で、このような第一波の経験から、私たちは今後のCOVID-19の広がりを抑えるためにはどうしたらよいかを考えていくことができます。
ここでは、山形県内COVID-19第一波の経験から得た
という『気づき』をもとに、家庭内感染およびその先の感染の広がりを抑えていくための方策について考えていきます。
なお、本記事を執筆している2021年5月現在、山形県においても変異株(E484K単独変異株およびN501Y変異株 [一部は英国型変異株と確定] )が流行の主体となっていますが、上記の感染伝播の傾向に変わりはありません。むしろ、家庭内感染に関しては、家族全員が感染してしまう事例が少なくない状況になっています。したがって、『家庭内感染の予防』は、より重要になっていると言えます(最近の流行状況の詳細については、当所が運営しているCOVID-19時空間三次元マップを参照ください)。
日常生活におけるCOVID-19感染予防対策は、要約するとマスクを正しくつけて密を避けることです。
マスクは、せっかく着用するのであれば粒子除去性能(細かな飛まつをブロックする能力)の高い不織布マスクを選んだほうが良いでしょう。ウレタンマスクは、粒子除去性能はほぼゼロです(仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター 西村秀一先生の実験結果参照)。また、防御効果を最大限まで高めるために、鼻から口までをしっかり不織布マスクで覆い、マスク上部のワイヤーを鼻から頬のラインにぴったり合わせることも大切です。なお、人目があるところではマスクをしていなければならない世の中の雰囲気がありますが、大事なのは必要な時にしっかりとマスクをつけることです。屋内に関しては、基本マスクを着用すべきです。一方で、屋外に関しては、朝の駅のホームやご近所さんとの井戸端会議などの密な場面ではマスクを着用すべきですが、人影まばらな歩道、閑散とした公園などの密ではない場面ではマスクをすることにほとんど意味はありません。四六時中マスクをつけていると疲れてしまいます。マスクをつけても意味がない時はしない、でも必要な時には完璧に装着するというメリハリが大事と考えられます。そして、屋外でマスクをしていない人がいても目くじらを立てない寛容さが世の中にあってほしいものです。
効果的に『密を避ける』ためには、危ない場面を知ることが大切です。その点において『感染リスクが高まる5つの場面』(新型コロナウイルス感染症対策分科会提言)は大いに参考になります。
この『5つの場面』の鍵は友人や同僚との会話・会食・カラオケです。では、私たちは、豊かな人生を送るために必要な親しい方々とのこれら楽しい時間をずっと我慢し続けなければならないのでしょうか?正直、やってられないと感じる方も多いと思います(執筆者もその一人です)。ただ、大人がCOVID-19の感染を広めていたという事実を踏まえ、今しばらくは我慢するところは我慢するという『大人の対応』が必要になると考えられます。
COVID-19に感染したかもしれない方、具体的には、前のセクションで述べた会食・カラオケをした方、COVID-19流行地域へ出張した方、COVID-19流行地域から帰省した方などは、2週間(難しいようであれば最低1週間)*、最大限の感染対策により家庭内感染を予防しましょう。この際、家の中でもマスクを正しくつけて密を避けることが鍵となります。
*感染から発症まで4~5日が多い点、14日目までは発症し得る点に基づき記載しました(アメリカ疾病予防管理センター(CDC)まとめ)
オミクロン株に関する補足・・・オミクロン株感染では発症までの期間が短いこともあり、7日目までの感染予防策が必要とされています(関連情報 山形県ホームページ)。そのため、2022年以降は、「2週間」を「7日」と読み替えて対応ください。
COVID-19に感染したかもしれない方の家庭内での2週間の対策
その他ご家族の2週間の対策
COVID-19は、症状が出る2日前から他の人に感染させ得る他、感染しても症状が出ない場合があり、無症状でも他の人に感染させる場合がある厄介な感染症です。家庭内は感染伝播を抑えるのが難しい環境ですが、新型コロナウイルスが入ってきたかもしれない時は最大限の対策をする、その代わり、ウイルス侵入の可能性が低い普段の生活では、家族全員が最大限仲良く過ごすというメリハリのある対応が感染を予防するために大事と思われます。
山形県におけるCOVID-19第一波では、感染を広めていたのはほとんどが何らかの症状を抱えている方でした。したがって、体調が悪い時(≒COVID-19に感染しているかもしれない時)に外出しないことが、家の外にウイルスを持ち出さない最も効果的な対策になります。
なお、万が一家族の中からCOVID-19感染者が見つかった場合は、保健所から具体的な感染予防策や検査のお願いの連絡がいきます。その際には、ご家族を、そして周囲の関係する方々を守るためにも、真摯に対応いただければ幸いです。
山形県内COVID-19第一波の分析により、山形県では、①家庭内感染が多かったこと、②大人が感染を広めていたこと、③有症者が感染を広めていたことが明らかになりました。これまで山形県では、県民の皆さまのご協力により他都道府県と比較して感染者が少ない状況が続いていますが、大人たちが良識ある行動をとり、家庭内感染を予防していけば、今後の県内でのCOVID-19の流行がさらに抑えられていくと考えられます。人と人は意外なところでつながっており、新型コロナウイルスはそのような人のつながりを頼りに広がっていきます。ご家族を、その周りの大切な方々を守るために、各家庭でどのような時に対策をとるべきかを事前に話し合い、実際に必要な場面が来た時には徹底的な対策をとっていただけると幸いです。
私どもの論文が引用されている論文の一覧は以下のとおりです。
1. Madewell ZJ et al. Factors Associated With Household Transmission of SARS-CoV-2 An Updated Systematic Review and Meta-analysis. JAMA. 2021;4:e2122240〒990-0031
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