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ウイルスによる細胞変性効果(CPE)の観察

 このページでは、各種ウイルスが細胞で増殖している様子をとった写真を掲載してみました。

また、細胞変性効果に関連したコンテンツを随時公開しておりますので、このページと合わせてご覧ください。

【このページの最終更新履歴】

2024.3.5 更新

ウイルスの存在を確認するには?

 ウイルスが皆さんに感染して病気をおこします。すると私たちは医療機関を通じて患者さんの咽頭拭い液(のどを綿棒で拭ったもの)や便の検体を受け取り、どんなウイルスが患者さんの中でふえて病気をおこしたのかを検査します。たとえば、冬になってインフルエンザが流行した時には、患者さんののどにどのような病原体がいるかを調べます。また、カキの生食の後に食中毒がおこることがありますが、患者さんの便で検査を行うと、小型球形ウイルスが検出されることが多いのです。

 それでは小さな小さな、約1万分の1ミリ程度のウイルスをどのようにして検出するのでしょう?

 まず、ウイルスを電子顕微鏡で直接見ることが考えられます。しかし、十分なウイルス粒子の数がないと見ることができないなどの限界があります。

細胞にウイルスを感染させる

 もう1つ、間接的にウイルスが存在していることを目で確認する方法があります。ウイルスは生きた細胞の中で増殖するので、培養容器の中で細胞を生かし、患者さんの検体をかけてやります。すると、検体中のウイルスが細胞内で増え、細胞が丸くなったり、細胞が膨らんだり、細胞が融合して大きくなったり、細胞が完全に破壊されてしまったり、形態的な変化(専門的には細胞変性効果とよびます)がおきます。この様子はふつうの光学顕微鏡で見ることができるのです。

 インフルエンザならイヌの腎臓細胞(MDCK細胞)で増える、麻疹ならリンパ球系細胞(B95a)で増えるなど、ウイルスの種類によって細胞との相性が異なります。また、ウイルスの種類によっては、ニワトリやモルモットの赤血球を吸着させる性質があるため、こうした反応を見てウイルスが増殖していることを調べることもできます(赤血球吸着反応)。

昔ながらの方法であるウイルス培養をなぜ続けているのか

 よく使われるウイルス検出方法の中に、培養細胞を用いたウイルス培養による検出、遺伝子検査による検出があります文献 1,2,3)。ウイルスの検査に携わる機関において、手間のかかるウイルス培養は敬遠され、実施が容易な遺伝子検査が主要な検査方法となりつつある、と聞くことがよくあります。そのような時流の中、当所ではあえて手間のかかるウイルス培養に力を入れているわけですが、その理由の一つはウイルス制御のための研究に貢献できると考えているからです。

 培養細胞を用いたウイルス培養は、ウイルス学の礎を築いた先駆者たちが1920年代頃から実施するようになった「古典的」な方法です文献 4) 。細胞に感染し増殖できるウイルスが得られるため、そのウイルスを新たな研究材料として利用できる点が最大のメリットです。ウイルスの病原性の仕組み、ウイルス増殖を阻害する薬、ウイルスに対するワクチンなど、ウイルスを制御するための研究の多くは、培養で得たウイルスを用いて実施されてきました。

 当所では1年を通して培養細胞を用いたウイルス培養を行っており、患者さんの呼吸器検体から多種類のウイルスを取得し、市中で流行しているウイルスとして保管しています。これらのウイルスは国立感染症研究所、大学、企業等に提供され、ウイルスを制御するための研究や開発に活用されたり、当所における疫学研究に用いられています。例としては、インフルエンザウイルスのワクチンを作るための基礎データを得るために活用されたことや文献 5)、パレコウイルスA1型の血清疫学調査(ウイルスに対する免疫をどれくらい持っているかの調査)文献 6)が挙げられます。

CPEの写真

画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示します
adenovirus

アデノウイルス

(HEp-2細胞)
 ぶどうの房様といわれる細胞変性効果が特徴的。
FluAH3N2

インフルエンザA香港型

(MDCK細胞)
  ウイルスが増殖して細胞が完全に破壊された。B型でも同様の細胞変性効果がみられる。
FluC

インフルエンザC型

(HMV-II細胞)
 大きく見える細胞がHMV-II、小さく長細いのがニワトリ赤血球。ウイルスが増殖したHMV-II細胞にニワトリ血球がくっついている(赤血球吸着反応)。
PIV

パラインフルエンザ3型

(HMV-II細胞)
 大きく見える細胞がHMV-II、小さく丸いのがモルモット赤血球。ウイルスが増殖したHMV-II細胞にモルモット血球がくっついている(赤血球吸着反応)。
herpesvirus

ヘルペスウイルス

(HEF細胞)
 ウイルスが増殖し、すでにすべての細胞が破壊された状態。
herpesvirus

ヘルペスウイルス

(VERO細胞)
 丸みをおびた細胞変性像があちこちに散在している。間はまだウイルスが増殖していない正常細胞。
CMV

サイトメガロウイルス

(HEF細胞)
 膨らんだ、透明感の高い細胞変性像が細胞から細胞へのゆっくりと拡大していくのが特徴。
CA16

エンテロウイルス(CA16)

(HEF細胞)
 手足口病患者から分離されたコクサッキーA16型の増殖により細胞は完全に破壊された。
CB10

エンテロウイルス(CB10)

(HEp-2細胞)
 コクサッキーB3の増殖により細胞が破壊された。  
Polio1

エンテロウイルス(Polio1)

(VERO細胞)
 ポリオウイルス1型の増殖初期像。下の方に正常細胞が残存している。
Echo6

エンテロウイルス(Echo6)

(RD18s細胞)
 エコー6型の増殖像。完全に細胞は破壊、脱落。
EV71

エンテロウイルス(EV71)

(GMK細胞)
 手足口病患者から分離されたエンテロウイルス71型の増殖像。
RSV

RSウイルス

(HEp-2細胞)
 小さなシンシチウム(合ほう体)を形成。
RSウイルスのCPEについて以下のページで詳しく紹介しています:「RSウイルスによる細胞変性効果」
Mumps

ムンプス(おたふくかぜ)ウイルス

(VERO細胞)
 全体に大きなシンシチウム(合ほう体)が広がった。
Measles

麻疹(はしか)ウイルス

(B95a細胞)
  矢印の先にある、大きく見えているところがウイルスの増殖により形成されたシンシチウム(合ほう体)。周りに小さく見えるのは正常細胞。

文献

  1. Leland D. and Landry M. L. Virus Isolation. In: Jerome K. R. editors. Lennette's Laboratory Diagnosis of Viral Infections, 4th ed., Informa Healthcare, New York, NY;2010. p.98-112.
  2. Landry M. L. Primary Isolation of Viruses. In: Specter S., Hodinka R. L., Young S. A., et al. Clinical Virology Manual, 4th ed., ASM Press, Washington, DC;2009. p.36-51.
  3. Greninger A. L., Wang D., Storch G. A., et al. Diagnostic Virology. In: Howley, P. M., Knipes, D. M., and Enquist M. W. et al., editors. Fields virology, 7th ed., volume 4, fundamentals, Wolters Kluwer Health/Lippincott Williams and Wilkins, Philadelphia, PA;2024. p.448-66.
  4. Oldstone, M. B. A. History of Virology. In Encyclopedia of Microbiology, 4th ed. Academic Press, Cambridge, MA;2014. p.608-12.
  5. 国立感染症研究所 インフルエンザウイルス流行株 抗原性解析と遺伝子系統樹 2023年10月24日
  6. Mizuta K, Itagaki T, Katsushima F, Katsushima Y, Sasaki M, Komabayashi K, Ikeda Y, Aoki Y, Matsuzaki Y. Longitudinal antigenic and seroepidemiological analyses of parechovirus A1 in Yamagata, Japan. J Med Virol. 2023;95:e28696.

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